はじめに

Morgan Stanley, chief cross asset strategist のAgerが、労働市場に関するデータの見方について教えてくれました。

スタート

予想を下回る新規雇用

5月7日金曜日、アメリカ労働統計局は、4月に約26万人の雇用を追加したと推定しましたが、これは予想されていた100万人をはるかに下回るものでした。いい機会ですので今回は、労働市場データが変動する理由を二つお話しします。

一つ目は、労働市場データが、他の経済データと比べると、環境の変化に対する反応が最も遅いということです。多くの場合、クレジット市場や株式市場は、環境の変化にこれらのデータよりはるかに敏感に反応します。

これは、雇用と解雇には経済的および感情的なコストがかかるため、経済状況の変化に対応して企業が最初に行う対応ではないことが多いからです。

現在もそうですが、2009年のリーマンショックの時もそうでした。失業が増え続けているにもかかわらず、株式市場は回復し始めるのです。NYダウは2000年と2007年にピークを示したことがありますが、この時も新しい雇用が生み出されている最中でした。

交錯する企業と労働者の思惑

二つ目は、企業と労働者の思惑がそれぞれ異なるためです。たとえば現在、失業者はレストランやホテルなどのコロナによる影響を受けた19のセクターに集中しており、企業によっては、完全に再開しないつもりか、またはより少ないスタッフで長く運営できるよう試みるつもりかもしれません。

一方でこれらの分野にいた労働者は、経済状況を鑑みて労働セクターを切り替える可能性があります。また一部の労働者は、家庭に専念するなどの理由で労働市場から姿を消す可能性があります。

すなわち失業率という数値の裏には、経済的混乱における企業と労働者のそれぞれのストーリーがあるということを忘れてはいけないということです。

雇用の最大化を目指す連邦準備金制度(FRB)はこの考え方を非常に重大であると捉えており、それが、経済が改善しても低金利を続けるべきだとFRBが考える理由の1つです。

雇用率増加のカギは長期金利

我々の見解では、労働市場に参入することができる労働者はまだまだ多く、雇用の最大化を達成するための最良の方法は、政策対応を提供し続けることだと考えています。この議論は、夏に市場が直面する最も重要な問題の1つになる可能性があるということです。

労働市場はこのまま改善を続けるでしょうか?

もしそうなら、それはインフレにつながるため、どこかの時点でFRBは金利を上昇させざるを得ないでしょう。Morgan Stanleyのエコノミストは、FRBが現在の政策を維持し、2023年まで金利を引き上げないと信じています。

その後引き上げられた金利によって同市場が動くか予測したところ、Morgan Stanleyの金利ストラテジストは、米国の30年国債の利回りが、5年債の利回りよりも上昇するため、これにより順イールドカーブが急勾配になると考えています。

ここでしめした内容はヨーロッパでは多少異なっています。景気回復は依然として米国に数ヶ月遅れているため、インフレ傾向がそれほど深刻ではありません。このためヨーロッパ中央銀行は、アメリカの動向を観察してから結論を出す余裕があるでしょう。

*上記のコンテンツはPodcast "Thoughts on the market"を和訳したものであり、情報提供のみを目的としております。また内容は作成時に入手可能な情報に基づくものあり、読者様の財務状況や投資目的を考慮しておらず、内容が適さない可能性があることにご留意ください。