米国経済インフレのお話Photo by Shvets Anna from Pexels

    はじめに

    米モーニングスター、director of manager researchのRussel Kinnelが、米国における最近のインフレーション事情とその対策について詳しく話してくれました。

    インフレーション

    インフレーション(以下インフレ)とは私たちが普段買っている日用品やサービスの値段(物価)が上がることを指します(SMBC日興証券より引用)。米国での物価変動は米国消費者物価指数(CPI)で観測されており、近年このCPIがコロナ感染症の感染拡大からの経済再開の影響で急上昇しています(下図)。

    米国CPIの推移
    CPI_2020-2021
    Yahoo!ファイナンスより引用)

    インフレ・リスク

    一般的に、物価の上昇に伴い金融商品の価値も上昇していきます。実際に米国株価は最高値を更新し続けています。ここで注意しなくてはならないのが、インフレ・リスクです。インフレ・リスクとは、預金などの利率よりも物価上昇率が高い場合において、資産価値が目減りする可能性のことで、このリスクが最も高いのが預金や債券です。

    インフレ・ヘッジ

    ではこのインフレ・リスクにどのように対応すればよいのでしょうか?インフレ・リスクを回避するためにインフレに乗じて価格が上下する商品を購入することをインフレ・ヘッジと呼びます。一般的には原油、貴金属や農産物などもコモディティがインフレ・ヘッジのために購入されています。

    CPIのグラフから読み取れる米国経済のインフレ・リスクを米投資家はどう捉えているのか、早速Russelの話を聞いていきましょう。

    スタート

    司会:今日はRusselにインフレ・ヘッジに関する金融商品が保有するに値するかどうか話してもらいましょう。Russel、今日は来てくれてありがとう。早速、今日のアメリカにおけるインフレについて現状を教えてもらえますか?

    Russel:間違いなく上昇していますが、さほど心配するレベルではありません。1年前、経済に急ブレーキがかかり、物価が下落しました。下落が1.5~2.0%であったのに対して4.5%ほど上昇しているので、完璧にコントロールできているとは言えませんが、このまま上昇を続ける心配はないと考えています。経済の急上昇と同時に急上昇した需要に、一時的に供給が追い付かないボトルネックが生じているだけでしょう。債券市場を見ると、インフレが起きているようには振舞っていません(債券市場とインフレの関係は考察で詳しく述べます)。

    司会:どんな債券に関する金融商品がインフレの影響を受けやすいですか?

    Russel:債券は最もインフレによるリスクが高い商品で、それは購入した時の利率で計算した最終的に得られる金額の価値が未来に下落している可能性があるからです。つまり期間が長い債券ほどリスクがあると言えますね。

    司会:インフレ・ヘッジに関する金融商品について、物価連動国債とコモディティに対する投資があると思いますが、これらはどのようにインフレから投資家を保護してくれるのですか?

    Russel:物価連動国債の購入はより直接的なインフレ・ヘッジとなります。なぜなら元本がCPIを基に上下するため(利率は変化しない)、物価が上昇するればもらえる金利が増えることになります。

    一方でコモディティは別の角度からのインフレ・ヘッジとなります。コモディティ投資とは、石油などのエネルギー、農産物や貴金属などのインフレを構成する商品に投資することです。物価連動債も、インフレの上下に影響を受けて多少浮き沈みしますが、コモディティはインフレ変化サインがあると、急降下または急上昇することがあるので注意が必要です。特に来年はコモディティ投資のブームがやってくると予想されるので50%利益を出すか、50%損失を出すかの2択になる可能性があります。

    このため、コモディティがポートフォリオ内で占める割合を5%以下に保っておくよう強くお勧めします。コモディティ投資は短期的に見れば魅力的に映るかもしれませんが、長期的に見たときのリターンは低く、賢明な投資家を誘惑することは出来ません。

    司会:ゴールド市場はどうでしょうか?

    Russel:コモディティ商品の中で非常に極端なパフォーマンスを示していますね。物価が上昇すればゴールドの価格も上昇し、また経済が上手くいかなければゴールドの価格が上昇します。一方で、価格が下落するときも一瞬です。このため、インフレ・ヘッジとして保有するコモディティの一部として保有するのは良いですが、ゴールドだけを保持するのはやめましょう。

    司会:今日はありがとうRussel。

    考察

    さてRusselによると、債券市場が、インフレをコントロールできているように振舞っているということでしたが一体どういう意味なのでしょう?

    債券の金利には実は2種類あります。一つ目は名目金利です。名目金利はインフレを考慮に入れていない表示されている金利のことを指します。二つ目は実質金利です。これは名目金利からインフレ率を差し引いたものです(たとえば、債券の名目金利が5%で、インフレ率が2%の場合、実質金利は3%)。

    このため投資家が国債の購入を検討する際には、表示されている名目金利に騙されずに、その国のインフレ率も加味しなくてはなりません。しかしそのインフレ率はどのように計算すればよいのでしょうか?

    一般的に使われるのは、ブレーク・イーブン・インフレ率です。これは一般的に10年利付債の流通利回りから10年物価連動債の流通利回りを差し引いた値を指します。ブレーク・イーブン・インフレ率がプラスで推移しているときは、市場は物価が上昇すると予測しており、マイナスで推移しているときは物価が低下すると予測していることを示します(大和証券Websiteより引用)。では早速米国のブレーク・イーブン・インフレ率を見ていきましょう。

    米国のブレーク・イーブン・インフレ率の推移
    米国のブレーク・イーブン・インフレ率の推移trendeconomics.comより引用)

    2021年8月現在のブレーク・イーブン・インフレ率は2.5%で、この数値は最近16年でさほど高い値ではないことがわかりますね。実際にリーマンショック前の2004~2007年や、リーマンショックからの回復後の2010年も約2.5%のブレーク・イーブン・インフレ率を示しています。

    以上のことから投資細胞くんもRusselと同様に米国内におけるインフレは、異常なものではなく経済回復に向けた正常なものであると考えています。一方で2.5%を超えるブレーク・イーブン・インフレ率は2004年以降一度も見られておらず、米国経済の回復が既に頭打ちであるともとらえることができます。今後ブレーク・イーブン・インフレ率が2.5%を超えていくとインフレへの危機感がより増していきます。引き続き米国経済の動向に注目しましょう。

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    *上記のコンテンツの一部はPodcast "Investing Insights"を和訳したものであり、情報提供のみを目的としております。また内容は作成時に入手可能な情報に基づくものあり、読者様の財務状況や投資目的を考慮しておらず、内容が適さない可能性があることにご留意ください。