コロナ感染症デルタ株と経済のお話

    はじめに

    2021、4月、新たに発見されたコロナウイルスΔ(デルタ)株が、ワクチン接種が進み、経済再開への期待を高める先進国に見事に水を差しました。アメリカ国内の一部地域ではマスク着用の宣言が再度行われ、オフィス街に人が戻ってくる未来は遠のいています。

    投資家はこの状況をどのように理解し、どこに投資すればよいのでしょうか?

    今日は、Goldman Sachsのバイオテクノロジーセクター・アナリストのTerence C. Flynnと、シニアグローバル・エコノミストのDaan StruyvenがワクチンのΔ株への効果、ブースターショットの意義、そしてΔ株蔓延の世界経済への影響について話してくれました。

    対話後の考察では、主要先進国のワクチン接種率と株価指数の動きをグラフにして比較したのでぜひ最後まで読んでいってください。

    対話スタート

    司会:Δ株が危険な理由を教えてもらえますか?

    Terence:ウイルスは変異を続けており、Δ株はその中でもっとも新しい株です。危険な理由の1つ目は強い伝達性です。従来のコロナウイルスより短時間の暴露で感染できることから、Δ株が従来のウイルス株に成り代わり世界中で蔓延しています。2つ目の理由は、ワクチン接種済みの人々もΔ株に感染し、ウイルスをまき散らしてしまう点です。これら二つの理由で、Δ株の感染拡大が起きています。

    司会:現行のワクチンはΔ株に対して有効ですか?

    Terence:ワクチンはΔ株であっても90%の確立で重症化を防ぐことができるという研究結果がイギリスから発表されました(Pfizerワクチンに関する研究)。これにはワクチン接種をきちんと2度受けることが重要です。2度目のワクチン接種を受けていれば、従来のα株への感染を92~93%防ぐことができます。しかしΔ株に対しては40%の確率でしか防ぐことしかできないとも言われており、企業が事実を究明している最中です。ただし、重症化を防ぐという点ではあらゆる研究が合意しており、人々がワクチン接種を行うことで病院のベッドに空きを作ることができるでしょう。

    司会:ワクチン接種者がΔ株への抵抗性を持つという事実はどのように調査されていますか?

    Terence:CDCが、病院搬送された感染者が退院するまでの期間を調べたところ、ワクチン接種をすでに2度行っていた感染者は、打っていなかった感染者より2~3日早く退院できたと報告されています。なお、ワクチン接種を受けて病院搬送された感染者は6,600人でした。ワクチン接種済みの人はアメリカに1億6千万人いますから、重症化は非常にまれだと考えられています。

    司会:現在数種類のワクチンが出回っていますが、これらに違いはありますか?

    Terence:すべてメッセンジャーRNAワクチンという点で一緒です。Δ株感染に対する重症化を防ぐという点でさほど性質に差はないでしょう。

    司会:ブースターショットが必要な理由はなんでしょうか?

    Terence:理由は主に2つあります。第1に、免疫力を高めることです。期間を開けてワクチンを複数回摂取することが、ウイルスへの抵抗性を引き上げることにつながります。第2に、新たな変異株に対応するためです。これはインフルエンザワクチンを毎年接種することと同じ理由です。ウイルスは変異を続けるため、毎年流行シーズン前に変異株に対する対策を行わなければなりません。

    司会:ブースターショットは、従来の株に対するワクチンを接種すればよいのですか?

    Terence:企業は2種類のブースターショットを用意する予定です。1種類目は従来のワクチン接種を1年後に行うブースターショットで、単純に言い換えれば3度目のワクチン接種を行うということですね。2種類目は、新たな変異株に対するブースターショットで、ModernaとPfizerはβ株に対するワクチンを製造中です。PfizerはさらにΔ株に対するワクチンの製造も検討しています。

    司会:ワクチン開発の今後はどうなっていくと予測していますか?

    Terence:3つの予測があります。1つ目は、企業は常に新たな変異株に対するワクチンを作り続けることになるでしょう。2つ目に、拡大する需要に追いつけるよう生産量の底上げを2022年を目途に行っています。3つ目はコンビネーションワクチンの開発です。インフルエンザワクチンとコロナウイルスに対する混合することにより、人々が1年に1度ワクチン接種することで、インフルエンザとコロナの両方に対して有効な免疫力を獲得できるワクチンが開発されるでしょう。

    司会:今日はありがとうTerence。続いて、DaanにΔ株の感染拡大が与える経済への影響を聞いていきましょう。Daan、Δ株は世界的に見てどの地域で流行していますか?

    Daan:先進国と発展途上国、どちらにおいてもΔ株の感染は拡大しています。一番感染が起きているイギリスは、ピーク時の60%ほどに感染を落ち着かせることに成功しました。少し時間をおいてスペインでも急速な拡大が見られましたが、フランスやイタリア、ドイツでも同様の感染拡大が起こるでしょう。

    アメリカに目を移すと、地域ごとにおける差がとても大きいことがわかります。アメリカ全体では55,000人が病院のベッドにいることがわかっていますが、この内訳をみてみると、フロリダ州では2000人に1人の割合で、ヴァーモント州では10,000人に1人の割合で病院のベッドを奪い合っています。これは主に、ワクチン接種率による違いです(フロリダでワクチン接種済みの大人の割合は約54%、ヴァーモントでは70.6%)。

    司会:Daanは、Δ株の感染拡大が経済成長に与える影響はどう考えていますか?

    Daan:消費・サービスの成長予測を2.5%引き下げたよ。これはリカバリー率がこの部門だけ低い現状と、人々がオフィスに戻る時期に遅れが生じるからだね。例えばオフィス街にあるレストランは今後も経済回復の恩恵を受けることはしばらくないだろう。

    司会:発展途上国ではどうでしょうか?

    Daan:メキシコを除いたラテンアメリカでの感染者数が減っていることが唯一のいいニュースだね。一方で、ワクチン接種拡大に出遅れたアジア地域は、2020年とは打って変わって厳しい状況が続いている。インド、ASEAN加盟国、日本やオーストラリアの成長予測は軒並み下がっているよ。症例数が急速に増加している中国についても引き続き成長予測は低いままだ。中国はウイルスを含んでいる可能性の高い国家の1つなので、第三クォーターの成長においても多くの不確実性があるね。

    司会:ワクチン接種が進まないのは供給不足が原因ですか?それともワクチンに関する否定的な意見が多いからですか?

    Daan:ほとんどの原因は供給不足だね。一部の発展途上国では交通網の不備によって効率的な配達ができていないことが原因となっていることもあるけどごく一部だ。ワクチンの需要は現在先進国よりも発展途上国の方が多くなっているよ。ワクチン需要の高さを国家ごとに比べてみると、イギリスに続いて、スペイン、ブラジルやいくつかの発展途上国の順に高くなっている。一方で、アメリカにおけるいくつかの州や、フランス、日本、オーストラリアやロシアは、ワクチン需要が低いんだ。これらの国家や州においてワクチン需要が低い理由は、ワクチン接種の拡大を政策に組み込むのに出遅れたからだ。

    司会:これらの状況を踏まえて、世界経済の成長はどのように予測されていますか?

    Daan:予想とコンセンサスのギャップが、4.0%がら3.1%に縮小しているよ。これには概ね2つの原因が考えられるね。1つ目の原因は、スペインやインドなどのワクチン接種の余地が残っている国に成長の余地が残っていることだ。これにより、ギャップが未だゼロにならないと考えているよ。一方で2つ目の原因は米国経済成長の急ブレーキだね。今年の夏の成長は7%だったけれど、2021年後半は1.5~2%ほどになる見込みで、2022年の後半には0%周辺になると予想されているよ。

    司会:今日はありがとうDann。

    考察

    Daanだけではなく、これまで紹介してきた多くの投資家がワクチン接種率が国家の経済成長にダイレクトにつながると話してくれていますが本当なのでしょうか?

    この疑問に答えるために、主要先進国のうち、フランス、アメリカ、および日本の株価指数とワクチン接種人口の関係をグラフにしてみました。フランスはヨーロッパ経済圏でワクチン接種率が最も高い国です(実際はポルトガルですが、経済的貢献を考慮してフランスを選びました)。アメリカもアメリカ大陸でカナダに次ぎワクチン接種率が高い国家です。一方でワクチン接種に出遅れたアジア圏の先進国として日本を選びました。

    フランス株価指数(CAC40)とワクチン接種人口の関係
    フランス株価指数(CAC40)とワクチン接種人口の関係
    アメリカ株価指数(S&P500)とワクチン接種人口の関係
    アメリカ株価指数(S&P500)とワクチン接種人口の関係

    日本株価指数(日経225)とワクチン接種人口の関係
    日本株価指数(日経225)とワクチン接種人口の関係
    (株価指数:macrotrends.netより引用)
    (ワクチン接種人口:ourworldindata.orgより引用)

    見ての通り、ワクチン接種が始まった2021年1月からフランスとアメリカの株価指数は徐々に伸びていっている様子がわかります。さらに興味深いのは、ワクチン接種率の人口比は50%に達した時期から、株価指数がさらに一段階上がっていますね。数理モデルにおいて、理論上の集団免疫獲得に至るワクチン接種率は60%と言われています。50%を超えた時点で、人々はコロナ感染症からの脱却を期待することが一つの要因だと考えられます。また、ワクチン接種が一定期間進んだ時点で国家は経済活動再開にアクセルを踏み込むため、スピードに乗っている頃合いとも一致するのでしょう。

    一方で遅れた日本は2021年8月中旬にようやく人口比50%を達成しました。またワクチン接種が始まった4月以降も株価指数が伸び悩んでいます。これは1-3月、すでにワクチン接種が始まっている国家に世界からお金が流れ込んでしまっていたために、出遅れた日本はその恩恵にあずかれなかったと読み取ることができます。しかしながら、フランスとアメリカ同様日本もワクチン接種率50%を達成しました。Daanは、「ワクチン接種の余地が残っている国に成長の余地が残っている」と言っており、今後日本経済に追い風が吹くかもしれません。

    ワクチン接種率が低い国にブルで参加するか、成長材料を出し尽くした国にベアで参加するか。あなたはどうする?

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    *上記のコンテンツの一部はPodcast "Exchanges at Goldman Sachs"を和訳したものであり、情報提供のみを目的としております。また内容は作成時に入手可能な情報に基づくものあり、読者様の財務状況や投資目的を考慮しておらず、内容が適さない可能性があることにご留意ください。