行動経済学行動と損失のお話

はじめに

近年、投資活動における心理・行動学を研究する学問である行動経済学(behavioral finance)が注目を集めています。

あなたは常に冷静に投資判断を行っていますか?

この質問に自信を持って、はい、と答えられる方は少ないかもしれません。なぜなら行動経済学の研究結果、僕らの投資判断には常に行動バイアスというものがかかっているからです。

行動バイアスとは簡単に言うと、「資産を守る(増やす)ために行動を起こすべき」という考え方です。投資の神様であるWarren Buffettも「株式を10年保有することができないのなら、10分たりとも保有するべきではない」といっているようにマーケットの過熱やパニックに合わせて行動していては、資産は増えません。

今日は行動経済学のスペシャリストであるDanial Crosby博士の話を覗いて、行動バイアスはどのような時に起こるのか、避けるためにはどうしたらよいのかを学んでいきましょう。

スタート

司会:2021年アメリカではスマートフォンでRobinhoodなどのアプリを入れることで気軽に投資を始められる世界になっています。これについてどう思われますか?

Crosby:最近18ヶ月の間に着目すると、性別、人種、年齢に関係なく投資ゲームに参加する人が増加しています。これまではサービスが行き渡らずに、投資に参加することができなかった人たちが投資に参加することはとてもいいことです。しかし一方で、Twitterをチェックしたり友人に間抜けなメッセージを送信するのと同じデバイスで、人生を変えるような経済的決定を下している人たちがいます。気軽にできるので、”賭け金”がとても低く見えている可能性があるようですね。また、アカウントを頻繁にチェックすることで、悪い行動バイアスを助長する可能性があることもわかっています。調査が行われた19か国で、アカウントをチェックし、取引が増えるほど、取引の成績が悪化する傾向があることがわかっています。

司会:18ヶ月ということは、パンデミック環境の中で重大な決定を下す人たちが増えたということですね。同様に、このパンデミック下で家を買ったり、仕事を辞めたり、退職を早めたりという人生において重要な決断を下す人がいました。パンデミック下のようなストレスの多い環境で、このような大きな人生の変化を起こすのは良い考えですか?

Crosby:私の「富の法則」という本で投資の原則を10個にまとめたのですが、そのうちの2つがその考えを諫めるのに役に立ちそうですね。1つ目は、過剰な利益(損失)は永続しない(excess is never permanent)。2つ目は興奮している時に下す決断は大抵失敗する(if you're excited about it, it's probably a bad idea)というものです。1つ目の言葉は、上昇相場で盛り上がる自分を諫める言葉ですが、同様に下降相場では自分を勇気づける言葉にもなります。2つ目の言葉は、住宅ローン金利が安いからという理由で、本当に必要かどうかを考えずにセカンドハウスを買ってしまった人たちへの戒めですね。

司会:とはいえ、人は目先の利益や損失に一喜一憂して、誤った判断を下してしまうものです。Crosbyは、投資家が誤った判断を下さないように行動学を基準にして、リスクキャパシティ、リスク許容度、そしてリスクの認知を重要と考えていますね。それぞれについて教えていただけませんか?

Crosby:リスクキャパシティとは、どのくらいのリスクを取ることができるかということです。これは、投資家の目標、タイムライン、現在の富のレベルに基づいて、どれだけリスクを取る余裕があるかによって決まります。

リスク許容度とは、どれほどのリスクを取って、リスクキャパシティ内の金額を運用していくかという方針によって決まります。これは驚くべきことなのですが、個人のリスク許容は生涯にわたってさほど変化しないことがわかっています。

一方で常に変化し続けるのが最後のリスクの認知です。これは、冷静な気持ちで行った投資判断が、そうではない感情に上書きされる可能性によって変化します。恐怖や欲望があなたのポートフォリオを変えさせる瞬間はどれくらいあるのか?せっかく決定したリスク許容度に強い感情が変化を与える可能性がどれくらいあるのか?などを測定することが大事ですね。

まとめると、リスクキャパシティの測定により運用額を決めて、リスク許容度の測定により運用方針を決めます。最後にリスクの認知を測定することで、誤った判断の要因を除いていくのです。

司会:それぞれをどのように測定していくのですか?

Crosby:リスクキャパシティの測定は、運用に回せる金額のことですので比較的簡単に計算できますね。

リスク許容度は、実際の運用額を基に取ったリスクにより、将来の資金がどれほど減る可能性があるのかをシミュレーションして見せることが効果的だと思います(明治アセットマネジメント:投資シミュレーション)。これにより、どれくらいのリスクを取ることがその投資家にとって最適なのか判断してもらっています。忘れられがちなのが、同じ$10,000でも、庶民の$10,000と富裕層の$10,000の価値が違うということですね。

リスクの認知の測定は、パーソナリティの5つの柱である、外向性、協調性、開放性、誠実性、および不安性をもとに投資家個人のパーソナリティを測定します。そして、これを出発点として、不安になりやすい人と、資産や市場に対する認識を大きく変えてしまうような、感情的な状態に陥りやすい人を調べ始めることができます。

(略)

司会:今日はありがとうCrosby

考察

筆者である細胞くんも、Crosby博士の話に出てきたよアプリRobinhoodを使っており、暇があれば資産の動きを見てしまっていました。僕のような多くの個人投資家にとって、今日は耳が痛い話だったかもしれません。今日は、Podcast中でも多くは語られなかった、外向性、協調性、開放性、誠実性、および不安性が投資にどのような影響を与えるのか考察していきましょう。

イギリスの経済雑誌 Journal of Behavioral Finance articleでは以下のように考えられています。

1)外向性

外向性が高い人は、社交的で、熱狂的で、おしゃべりで、断定的です。一般的に、外向性の高い人は興奮したいという欲を満たすためにより多くのリスクを負う傾向があります。

利点:リスク許容度が高くなる傾向があります。これは、潜在的に高いリターンを意味する可能性があります。

短所:大きなリスクによりお金を失う可能性があります。

2)協調性

協調性の高い人は、他人を信頼し、利他的で、楽観的です。彼らは自分より他人をおもんばかる傾向にあります。

利点:ポートフォリオについてアドバイザーと協力する場合、彼らは協力的です。

短所:彼らは他人を怒らせるのが好きではなく、投資の際に彼らが感じた危険信号をアドバイザーに伝えることをためらうかもしれません。

3)誠実性

誠実な人は徹底しており、注意深く、勤勉です。彼らは、長期的な目標を支持して、目先の利益をスルーする能力を持っています。

利点:長期投資家は忍耐強く、衝動的なリスクテイクから身を守ることができます。

短所:リスク回避的すぎるかもしれません。

4)不安性

不安性の高い人は感情的に不安定です。彼らは、うつ病、不安、怒りなどの心理的苦痛を起こしやすいです。

利点:彼らは外向性が高い人と同様にリスクに引き寄せられます。高いリスク許容度は潜在的により高いリターンに匹敵する可能性があります。

短所:衝動的です。したがって、彼らは感情的な経済的決定を下す傾向があります。

5)開放性

開放性が高い個人は、想像力に富み、好奇心が強く、新しいアイデアを受け入れることができます。彼らは積極的に新しい経験を求めています。この特性は、知性と高い相関関係があります。

開放性は特性の中でも研究が進んでおらず、リストされている長所または短所はありません。

原文の中で、30歳を過ぎると経験を基にこれら5つのパーソナリティも落ち着いてくることがわかっていると書かれていたので、年の功によってもいい投資判断顔の萎えるようになるかもしれません。なお英語ではありますが、自分の適性をコチラでチェックすることが可能ですので、興味がある方はぜひ。

行動バイアスや、自分の性格が投資に影響を与えることを理解して、長期的な視点で大きな利益を目指しましょう。

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saibou

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*上記のコンテンツの一部はPodcast "The long view"を和訳したものであり、情報提供のみを目的としております。また内容は作成時に入手可能な情報に基づくものあり、読者様の財務状況や投資目的を考慮しておらず、内容が適さない可能性があることにご留意ください。