はじめに
2021年10月11日、ノーベル経済字貨の受賞者が発表されまました。受貸者はDavid Card博士、Joshua D. Angrist博士、そしてGuido W. Angrist博士らでした。
Card博士はアメリカの労働市場を長年研究している方で、彼が2005年に発表した「新たに入ってくる移民がもたらす経済効果は限りなく小さい」という研究結果は大変注目されました(Is the New immigration Really So Bad?)。
なぜそんなに注目を浴びたのか?どのような研究手法で移民が米国労働市場に与える影響を調べたのか?これらの疑問の答えを探るべく、実際の論文を今日は解説していきます。
細胞くんと一緒に、ノーベル経済学賞受賞者の論文を読み解いていきましょう。
スタート
移民が、アメリカで生まれ育った国民(以下ネイティブ)の低賃金化につながっているという主張が、1960年代の移民ブームの際に広がりました。この主張はとくに低賃金・低スキル層の人々の問で流行し、もはや信仰に近いものとなっていました。
今日は、移民が低賃金,低スキル層に位置するネイティブの労働を奪っているのか、という疑問について答えていきたいと考えています。
まずは移民の出身地域を2000年の国民調査から見てみると、13.6%がヨーロッパ、32%がメキシコ、16%が中央アメリカ、26.6%がアジアという結果になりました(下図)
アメリカにおける移民の割合
次に移民たちの字歴をネイティブたちと比べてみると、移民の38.2%が高校中退者(低賃金・低スキル層)であったのに対して、ネイティブの高校中退者の割合は14.2%でした。しかしながら、大学卒や、修士、または博士号取得者の比率においては、移民(9.2%)とネイテイプ(7.5%)の間でほとんど差は見られませんでした。
これまで多くの研究が対象としてきた低賃金・低スキル層は、そもそもネイティブと移民の学歴に偏りのある階層であったことが分かります。
ではこの階層において、移民はネイティブの労働を奪っているのでしょうか?
これについて、1980年から2000年における移民の増加をアメリカの主要都市ごとに調査した結果、3つのことがわかりました。
①1980年に9.5%であった移民の割合が、2000年には18%と約2倍に増加
②どちらの年においても、移民の3割が高校中退者
③一方でネイティブの高校中退者の割合が減少、高卒者の割合が増加
すなわち、低賃金,低スキル層における移民の占有率が上昇している理由は、移民が増えたというよりも、ネイティブの学歴が高くなっために、低賃金・低スキル層におけるネイティブの割合が減少したことに起因すると考えられます。
では次に、移民が低賃金,低スキル層に位置するネイティブの給料や層用に影響を与えているかどうかについて見ていきましょう
Card博士は、ある都市における低スキル層の賃金(または雇用率)とその都市における移民の割合の相関関係に着目しました。相関関係が大きくなるということは、移民の割合が多くなるほど賃金(または雇用率)が高くなることを示し、相関関係が小さくなるということは移民の割合が多くなるほど賃金(または層用率)が低くなるということを示します。
調査の結果、賃金と移民の割合の相関関係はほぼありませんでした。一方で、層用率と移民の割合には相間関係が見られたものの、微々たるものでした(相間関数=0.07)。
すなわち、移民の増加はネイティブの雇用率に多少影響を与えるものの、その影響は微々たるもので、賃金に対しては全く影響を与えないことが明らかにされたのです。
考察
以上の研究結果からCard博士は、移民が低賃金・低スキル層の労働機会を害したという主張には、学術的証拠にかけていることを証明しました。
実はこの解説、論文全体の半分しか含んでおりません。気になる方はぜひ原文もチェックしてみてください。→Is the New immigration Really So Bad?
*上記のコンテンツの一部は論文の一部を和訳したものであり、情報提供のみを目的としております。また内容は作成時に入手可能な情報に基づくものあり、読者様の財務状況や投資目的を考慮しておらず、内容が適さない可能性があることにご留意ください。
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