米国経済Carbon taxのお話

はじめに

COP26が11月にイギリス(スコットランド)、グラスゴーで行われる。この会議では、各国のリーダーが集まり気候変動への対策を議論する。第26回となる本会議は、「人類のターニング・ポイント(turning point for humanity)」となると宣言されており、現在温室効果ガス問題が話題となっています。

今日は、J.P Morgan, Senior Climate Scientist and Sustainability StrategistのDr. Sarah Kapnickと、Global Market StrategistのMeera Panditから各国の二酸化炭素排出のために現在行われている政策と、今後行われるべき政策について学んでいきましょう。 

対話スタート

司会:世界各国のリーダーがNet zeroという温室効果ガスを限りなくゼロに近づける目標をを数十年の間に達成しようとしていますが、当然排出をゼロにすることは不可能です。そこで、カーボンオフセットがカギになります。

カーボンオフセットとは、排出された二酸化炭素などの温室効果ガスを、植林・森林保護・クリーンエネルギー事業による削減活動によって「他の場所」で直接的、間接的に吸収しようとする考え方や活動の総称で(参照:wikipedia)、現在カーボンプライシングによって行なわれています。Sarah、カーボンプライシングのメリットと歴史について教えてもらえますか。

Sarah:カーボンプライシングとは、お金を払って二酸化炭素、メタンや窒素酸化物などのグリーンハウスガスの排出権を購入する制度ですね。目的はグリーンハウスガス排出量を効率的に管理・削減することです。

ご存知の通りグリーンハウスガスは温暖化の原因であり、海水面の上昇や日照りによる水不足などの深刻なダメージを引き起こすために、これらの排出を削減する必要があります。

アメリカで代表的なものはCarbon taxです。グリーンハウスガスの排出量1トンおきに価格が設定されていて、この値段は常に変動しています。ただしアメリカではCarbon taxは特定のセクターのみを対象としているため、今後対象セクターの拡大が必要です。

国際的には、セメントや農業などのセクターに対してもCarbon taxを課すことでさらなるグリーンハウスガス排出削減に取り組んでいます。

世界が本格的にグリーンハウスガスの排出削減に取り組むようになったのは2015年12月のパリ協定からです。196の国が排出削減を目指すことに合意しました。しかし当時の協定に盛り込まれた削減対象はヨーロッパのみで、世界の排出量の10%しかカバーできていませんでした。しかしこのカバー率も昨年行われた会議において21%に上り、今後もどんどん上昇していくでしょう。次の会議は2021年11月にイギリスグラスゴーで行われる予定です。

司会:カーボンプライシングは今後どのように改善されていきますか?

Sarah:Carbon taxは、政府が学術的研究や政策方針によって価格を決めてそれを税金として徴収するため、国ごとに価格が異なります。課税額最大のスウェーデンにおいては、1トンあたり140ドルの課税を行っています。しかし他国ではこの課税額は50ドルかそれ以下になってしまう(参照)ために、国ごとでのミスマッチが生じているのが現状です。

学術界は1トンあたり$200以上にするべきだと主張していますし、気候変動の悪化に伴い今後は世界的に課税額はさらに上昇していくでしょう。

司会:世界的に取り組んでいくということが大事ですね。Meera、Carbon taxにより回収されたお金はどのように使われているのですか?

Meera:いい質問ですね。世界中で集められているCarbon taxは450億ドルに上ります。これらのお金は、例えば再生可能資源の開発や、電気自動車充電施設の設置、高性能バッテリーの開発に使われるでしょう。

ヨーロッパでは、これらの金額を実際に海水レベルの上昇に苛まれている発展途上国の支援に使っています。

一方で、消費者への還元も行われるべきでしょう。グリーンハウスガスを使わずに日用品を作るには莫大なコストがかかるため、これらの商品を消費者に届けるためにはある程度のサポートが必要になると考えられています。これにより消費者がスムーズにカーボンレス商品に移行することができるでしょう。

司会:では実際の環境について聞いていきましょう。Sarah、シンプルな質問で悪いのですが、あと何本の木があれば二酸化炭素排出を相殺できるのですか?

Sarah:米国の企業から排出される温室効果ガスを相殺するためには、既に存在する森林の2倍の敷地の森林が必要です。世界中の企業に対しては既存の5倍の森林が必要となります。2021年でも未だ、植物以外に二酸化炭素の排出を相殺してくれるものはありません。そのため、木を植えることだけが現在うてる最善手です。キーワードはReforestration、Afforestration、そしてAvoid Deforestrationですね。

Reforestrationとは、山火事や伐採により失われた森林に再度木々を植えるアプローチですね。

Afforestationは、今まで森林がなかった地域に木々を植える活動を指します。私もこの活動に参加していますが、Afforestrationでは木の成長のために大量の水を使うので、地域の飲料水の量との調整が必要不可欠です。

Avoid Deforestationは、森林破壊を避けようとする働きですね。

これらの活動により木々を今後100年単位で守っていくことが、グリーンハウスガスの削減、さらには地域の生物多様性の保全につながるでしょう。

司会:一方で経済に視点を移すとグリーンハウスガス削減の運動により、今後生産者の供給するモノと消費者の需要の間にミスマッチが起きる可能性がありますね。供給と需要のミスマッチはインフレの引き金となります。Meera、現在市場で見られているインフレーションはどんなものがありますか?

Meera:その通りです。エネルギーを転換する際には非常に強力なインフレ圧力がかかります。Carbon taxの増加は炭や天然ガス、ガソリンの価格上昇を引き起こすでしょう。消費者の視点から見ると、特に低所得者においてガソリンの価格が増加することは生活費の上昇に直結します。

エネルギーにコストがかかるということは生産にかかるコストがかかるということですから、企業は利益を出すことが難しくなります。この影響は天然ガスの価格を上げているヨーロッパではすでにみられていて、今後は天然ガスの価格のボラティリティがさらに上昇するでしょう。

勘違いしてはいけないのは、これらはエネルギーの転換に必要な市場の反応だということです。企業も消費者もしばらくは金銭的に苦しい期間が続きますが、政府による支援を受けながらこの転換期を乗り越えていかなくてはなりません。

司会:最後に二人にお聞きしたいのですが、今後の10年単位で二酸化炭素を削減していくためにどのような技術が開発されていくと予想していますか?リスナー(読者)の多くは投資家ですので、ぜひ今後の投資機会がどこにあるのか教えてください。

Meera:現在の技術で削減できる排出量は55%だと言われていて、残りの45%を削減するためには新たな技術が必要となります。政府からの支援は未だ十分とは言えませんが、一方でプライベートな支援を受けているベンチャー企業が主役となって新規技術開発に挑んでいます。もちろん政府からの支援も拡大していくでしょう。

Sarah:IPCCは気温を1.5~2.0下げなければならないと提唱しており、大気中や海水中において化学的に炭素を吸着してくれる物質を2060年までに発見または開発したいと考えています。もちろん未だにその物質は見つかっていませんが、アイスランドにおいてこの研究が盛んです。

この技術は海水から炭素を抽出し、プラスチックを作るという画期的なもので、この技術により海水から二酸化炭素を減らしかつ、石油から作られるプラスチックの代替品を産生することができます。

司会:今日は二人ともありがとう。

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saibou

Center for Investment Excellence

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