はじめに
米国も日本と同様に少子高齢化社会を迎えることになりそうです。1946年から1964年に起きたベイビーブーム。この時代で生まれた子供たちが今後10年の間に老後を迎えることになるでしょう。そこで投資機会が眠っているのがヘルスケア。中でも今日はジェノミクスについて紹介します。
ジェノミクスの発展はあなた個人のための医療を実現する
ジェノミクスとは遺伝子に関する研究のことで、2003年にヒトゲノムが解読されて以降急激に発展してきました。技術の発展によりヒトゲノム解析はより一般化しており、あなた個人のヒトゲノムを解読するのにかかる費用は約500ドルです。つまり、症状や病気を個人ごとに、より適切に予測することが可能になったのです。ジェノミクスの発展により、医療はあなた個人を対象としたものになり、薬もあなた個人に合った用法・要領で処方される、パーソナライズ医療が当たり前になっていくでしょう。
しかし一口にジェノミクスといってもその分野は多岐にわたります。今日はJ.P. Morgan Asset Management, senior healthcare analyst for the Innovators strategyのNick Leventisの話を聞いて、今後のトレンドと投資機会を探索していきましょう。
対話スタート
司会:Nick、今日は来てくれてありがとう。まずは米国がヘルスケアにおいてどんな問題に直面しているのか聞かせてください。
Nick:①GDPのうち18%がヘルスケアに対する出費であること、②毎日1万人が65歳を迎えて定年退職していること、③慢性疾患を持つ人が増えており、2030年には8000万人の人が慢性疾患を抱える(2015年は3000万人)でしょう。慢性疾患とは糖尿病、がんや循環器疾患が含まれており、患った人はそうでない人の10倍の医療費を払うことになると言われています。
司会:たくさんの問題がありますね。近年深まっているヒトゲノムへの理解はこれらの問題の解決にどのように役立っていますか?
Nick:大きい利点はコストの削減にありますね。2003年にはヒトゲノムを解読するのに1億ドルかかっていました。16年後の2019年には約1000ドル程度となり、今では安ければ500ドルほどで解読できます。つまり、EGFR遺伝子や、HER2遺伝子(参照:中川製薬)などのがん遺伝子の同定が安価で行えるようになったのです。変異が発生している遺伝子に対する治療法を適切に診断できるために、より正しい治療法を選択できるようになりました。
司会:他分野ではいかがですか?
Nick:MRDの発見が大きいですね。がんの一種である白血病は、白血球ががん細胞化することで起きる疾病です。一般的に抗がん剤により白血病細胞を殺すことで治療は完了しますが、再発することが多々あり、これを予測することは不可能でした。しかし現在のDNA増幅技術のおかげで、再発を10か月前には予測できるようになったため、より早期に治療を再開することができます。
次にシングルセル解析です。普通の細胞に遺伝子変異が起きることでがん細胞になることが知られていますが、実は一つ一つの細胞が固有の変異を持っていることが技術の発展によりわかってきました。がんが発見された時にそれぞれの細胞がどのような遺伝子変異を持つかを調べることで、より適切な治療法を選ぶことができます。
メッセンジャーRNAに関する技術の発展も重要ですね。多くの人がコロナ禍で耳にしたことがある名称だと思いますが、この技術もまたDNAシークエンス技術の発展がなければ確立されていなかったでしょう。
他にも様々な技術が開発段階にありますね。
司会:素晴らしい技術ばかりですね。次にコストに関する話を伺いたいと思います。2025年には国民の医療費総額が1.6兆ドルに達する見通しですが、なぜ薬はこんなにも高価なのですか?また、今後も価格が上昇しつつける場合、投資家はどのようなリスクを抱えることになるでしょうか?
Nick:薬の価格を上昇させる要因は大まかに2つあります。1つ目は新規薬剤が高価すぎることですね。100万ドルのコストがかかることもよくあります。2つ目は1つの薬を開発するためのコストです。一般的に企業は新たな薬剤を25億ドルかけて、10~15年を費やして開発しますので異常な金額と時間がかかっています。
ただしこれは市場で取り扱われている薬の約10%の話で、残り90%はジェネリック医薬品として5ドルかそれ以下で購入することができます。つまり、たった10%の高価な治療薬や治療法が医療コストを上昇させているということです。今後はジェネリック医薬品はどんどん安くなり、新規治療薬はどんどん高価になることでそのギャップは拡大すると予測しています。
最後に投資家に降りかかるリスクですが、私は特にないと考えています。製薬会社が薬を作りやすくなるような法律は今後もどんどん議会を通過するでしょうし、金額に関しても是正が入る余地は今のところなさそうです。もちろんどこに悪魔が潜んでいるかは分かりませんが、楽観的に見て大丈夫だと思います。
司会:コロナ禍で薬やワクチンのFDAによる承認に時間がかかりすぎるという問題が露呈しました。結果としてコロナ感染症が、承認にいたるまでの時間の削減を手助けしましたが、他の薬剤の承認に至る時間も削減されますか?
Nick:コロナウイルスに対するワクチンは、今後の歴史上最速で作られたワクチンとなるでしょう。2020年1月にDNAシークエンスが解読され、2020年7月にはワクチンの臨床テストが始まっており、12月には現場での緊急対応に使われ始めました。
先ほども話したように、新薬の開発には25億ドルのお金と、10~15年の歳月が必要です。これが削減され、例えば25億ドルが15億ドルになり、10~15年が8~12年になったとすれば、新薬の流通は加速します。マシンラーニングなどの新たな技術により新薬開発の加速をどの企業も目指していますが、コロナワクチンほどの速度で開発される新薬は未来永劫ないでしょうね。
司会:最後に、医療の発展における未来と、それを妨げる障害について聞かせてください。
Nick:がんの早期発見につながるリキッドバイオプシーの発展が大きな投資機会になると考えています。一方で障害となるのは時間ですね。新しい治療法や診断方法の安全性は一夜で解明できるものではありませんからね。
司会:今日はありがとうNick
考察
とても有益な話を聞くことができましたね。今日は最後にNickも紹介していたリキッドバイオプシーに力を入れている企業を3つ紹介します。
1.Illumina (NSDG:ILMN)
2. EXACT Sciences Corporation (NSDQ: EXAS)
3. Guardant Health (NSDQ: GH)
金融商品は安く購入して、高く売却する。ただそれだけ。今日も皆さんが楽しい投資ライフを送れますように。
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*上記に含まれるコンテンツの一部はPodcast "Insights NOW"を和訳したものであり、情報提供のみを目的としております。また内容は作成時に入手可能な情報に基づくものあり、読者様の財務状況や投資目的を考慮しておらず、内容が適さない可能性があることにご留意ください。

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