米国経済成長予測

はじめに

12月に入り、2021年の残り1か月をきりました。年の瀬が近づくと、来年の経済動向が気になってしまうのは僕だけではないはず。今日は、Morgan Stanleyの新しいchief global economist、Seth Carpenterが2022年の米国経済予測について話してくれたので、早速見ていきましょう。

スタート

司会:今日はMorgan Stanleyの新らしいChief EconomistのSeth Carpenterに来てもらいました。早速ですが、2022の米国経済をどのように予想しているか聞かせてください。

Seth:かなり楽観的に見ています。経済成長の中心となるのはやはり米国と中国ですね。2022年の米国の経済成長率は4.5%になると予想しています。4.5%は、2020~2021年の経済成長率と比較すると低い数字のように聞こえますが、かなり堅調な数字と言えますね。

労働者は仕事へと戻り、消費も加速しています。現在米国においては加速する消費に追いつかず、在庫がやせ細っています。今後在庫の量が回復してきた際には、さらなる経済成長が見られるはずです。

司会:中国の経済成長の予測とそれをけん引する要因は何ですか?

Seth:5.5%の経済成長を予測しています。Policy makerが政策を大幅転換したために2021年の第3Qの成長率は大幅に減速していましたが、2022年はそれを取り戻す年になるでしょう。

司会:米国では来年以降政府からの財政サポートは途絶えますよね。そのためFiscal cliff(財政の崖)が目前に迫っているのではないかという見方が強まっているのですが、Sethの意見を聞かせてください。

Seth:2020年の財政政策はすべてincome replacementとして使われました。すなわち、職業を失った人が、収入と同額程度のサポートを受けて、コロナ前と同様の消費を行えるよう支援する政策でした。失業者達は、まだ完璧とは言えませんが、少しずつ労働市場に戻ってきており、2022年はサポートなしで通常の消費活動を行ってくれると予想しています。

また、政府による財政サポートを過剰に受けた人たちがいますが、彼らは余剰分を貯金していることが分かっています。一部は2022年に使われると考えており、これがもう1つ、我々が2022年の米国経済を楽観視している理由ですね。

司会:インフレーションを懸念した声もかなり聞こえてきます。経済成長を楽観視していますが、過度なインフレーションは消費者の購買力を減退させますよね?

Seth:インフレーションに関する疑問がわくのは至極当然ですね。おっしゃる通り、過度なインフレーションは購買力の低下を引き起こします。特に債券の利子で暮らしている人や、政府からの支援が届かないような末端の人たちへの影響は絶大です。ガソリンや食料品の値上がりが直接家計に響きますからね。

我々の予想では、石油のインフレーションは12月をピークに少しずつ通常価格に戻っていくと予想しています。現在は供給が需要の増大に一時的に追いついていないボトルネック現象が起きているだけで、全ての価格は2022初頭をピークに元に戻っていくでしょう。

司会:インフレーション圧力は米国以外でも強まっているのですか?

Seth:世界的なトレンドになっていますね。違うのはインフレーション圧力が高まるタイミングです。先ほど米国の状況について話しましたが、小国ではより深刻な状態になります。ちょっとしたインフレーション圧力で小国が通貨安に陥った場合、その小国では輸入品の価格が増加し、そのことがさらなるインフレーション圧力となるからです。

労働者を守る制度という点でもアメリカとヨーロッパでは異なります。ヨーロッパでは「一時雇用制度」という、給料を支払うことができなくなった雇用主の代わりに政府が給料の一部を雇用者に支払う制度があります。最初は給料の80%、次に60%、最終的には20%となるまで支払額は減額されていきます。この制度のおかげで失業者の急増は免れるものの、時間を追うにつれて失業者の増加が予測されるため、インフレーション圧力が高まるタイミングがアメリカとは異なります。

司会:サプライチェーンにおけるインフレーションについて聞きたいのですが、まずはこの分野におけるよくある誤解について教えてください。

Seth:2つありますね。1つ目は消費者と中央銀行でインフレーションの見方が違うということです。例えば牛乳を例に出すと、消費者は店に行き、牛乳が以前より高価になっているかどうか価格レベルを基準としています。一方で中央銀行は価格の成長率をインフレーションの基準としています。

現状で成長率がゼロになったということは、価格レベルが高いまま、それ以上成長しないということなので、消費者にとって牛乳は以前より高価な商品となったままなのです。インフレーション率と、価格レベルの上昇は別々に考えるべきですね。

2つ目は、1つの部品の供給が悪化するだけで、商品そのものの供給不足につながる可能性があるということです。例えば自動車製造におけるマイクロチップ不足に着目してみましょう。現在マイクロチップが不足していて、インフレーションが起きています。しかし自動車を作るうえで他の部品は通常価格だとすると、マイクロチップ以外の部品は組み立てることができますが、組み立てたとしてもそれは「自動車」ではありませんよね?

このように部品の5%が手に入らない状態で、95%完成した自動車を100台作ったとしても、実質は自動車ゼロ台です。

ほんの1つの部品の供給不足によって、企業活動が完全にストップしてしまう可能性があることを覚えておいてください。

司会:各国の中央銀行はインフレーションをどのように取り扱うのか、その手腕が問われていますが彼らの議論はどのように展開されていますか?

Seth:パウエル議長がテーパリングについて言及しましたね。同様にインフレーションについても言及しており、2022年の第2か第3クォーターまでには実質的に下がるだろうとのことでした。ここまでの言及にとどめたということは、まだデータを精査している最中であるということだと思います。

インフレーションを止める簡単な政策は利上げです。しかしインフレーションだけを見て利上げに踏み切ることは出来ません。利上げは同時に労働者の職業を奪うことにもつながるからです。我々のチームの予測では、インフレーションは2022年半ばに低下をはじめ反対に労働供給率は上昇していくでしょう。すなわち、2022年の終わりか、2023年の初めに短期金利の利上げが行われるのではないかと予測しています。

司会:リスナー(読者)の中にはベアポジションをとっている人もいるので、ぜひ経済が悪化するケースについての予測も教えてくれませんか?

Seth:良い質問ですね。2つのケースについて見ていきましょう。1つ目はサプライチェーンの供給が一向に改善しない場合です。我々は現在、インフレーションは一時的な供給不足から起きていると考えていますが、これが恒久的なものだった場合ですね。この世界線では商品の価格は上がり続けるため、世界全体で利上げが行われます。その結果、供給はさらに減り、財政状態が厳しくなるため、生産量が減り、経済活動が減るという二重の苦痛を味わうことになります。

2つ目はすべてが上手くいかない場合ですね。米国が想像以上に財政難であるかもしれません、ヨーロッパ各国の労働者支援が上手くいかないかもしれませんし、中国の経済成長は2022年に回復しないかもしれません。しかしこの世界線は、コロナ感染症の流行と同時に予測されていたことが起きるだけなので、さほど驚きはないかもしれません。

司会:最後にポジティブな予測で締めてもらえますか?

Seth:ベストなケースでは、スペアパーツが供給されることなどにより、商品の供給が過剰なまでに回復することですね。この世界線では消費者は欲しいものを、昨年受けたサポートの残りで容易に手に入れることができ、結果経済の回復が促されます。供給の見通しが立てば労働者を大量に雇うことも可能になります。さらにコロナに対するワクチン接種が子供たちにも広がれば、2022年はより快適な年となるでしょう。

司会:Seth、今日はありがとうございました。

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saibou
Though on the market

*上記のコンテンツの一部はPodcast "Though on the market"を和訳したものであり、情報提供のみを目的としております。また内容は作成時に入手可能な情報に基づくものあり、読者様の財務状況や投資目的を考慮しておらず、内容が適さない可能性があることにご留意ください。