米国経済が成長を続ける理由

はじめに

J.P. Morgan、Chairman of Market and Investment Strategy for Asset ManagementのMichael Cembalestが、コロナ感染症からのリオープンにおける米国経済の見通しについて話してくれました。

コロナ感染症の発見から2年が経ち、現在世界の各地でワクチン接種が加速しています。米国ではワクチン接種に伴い企業活動の制限を緩めたことにより、経済がこれまでにない成長を見せています。しかし投資家の皆さんは同時に、この上がり続ける株価に終わりが来るのではないかと心配しているはずです。

2021年6月のFOMCでは2023年までに段階的に長期金利を引き上げるべきとの発言がされました(参照:けっきょく長期金利っていつ上昇するの?...)。2022年には政府がCorporate taxの増税を検討中です。これらの懸念材料を、米国名投資銀行のアナリストたちはどのように消化しているのか?

明日から枕を高くして寝られるように、今日は投資細胞くんと一緒に米国経済への疑念を解消していきましょう。

対話スタート

司会:2021年前半は、史上最高値を更新したGDP成長率と株式市場に見られるように、パンデミック不況からの非常に強力な回復を示しました。後半に向けて、米国は完全回復への道を歩み続けると予想されますが、感染性の強い亜種の出現や、税金の増加などいくつかの課題が残っています。 今日、コロナ後の世界における投資についてMichaelに話を聞かせてもらいましょう。Michael、アメリカは2021年とても意欲的にワクチン接種に取り組んできましたが、感染症の恐怖は今年中に払拭できるのでしょうか?

Michael:残念だけど、一部の地域ではまだワクチンがいきわたっていないのが現状ですね。天然痘が根絶された時は、根絶が確認されるまでに3~5年を要しました。致死率が20-30%と異常に危険であったことからワクチン接種も厳密に順守されていました。コロナ感染症ももちろん危険ですが天然痘ほどではないため人々の意識にも違いがあるようです。また企業は今後も引き続き1年に1度コロナ感染症に対するワクチンを接種するブースターショットが必要であるだろうと言っていますしね。

司会:他の国や地域はどうですか?

Michael:ヨーロッパやカナダでのワクチン接種は急激に広がっている一方で、新興国エリアでは人口のの10~20%程しかワクチン接種が進んでいません。今後はPfizerとModernaがワクチン生産を先細らせる可能性もありますし、新たにサインアップされた中国製のワクチンの有効性も未だ疑問なため、これらのエリアのワクチン接種率には今後も注目するべきでしょう。

司会:ワクチン接種率以外にも、政府による財政支援が経済回復のブースターショットとなっていました。今後もこの財政支援は続くと予想していますか?

Michael:現在これまでに行われた財政支援の結果についての議論が行われており、これに3~4週間を要するでしょう。この議論を経て今後の財政支援の金額が決められるわけですが、保守派は1.5~2兆ドルを超えるべきではないと言っており、一方で推進派は3.5~4兆ドルの財政支援を行うべきだと主張しています(2021年3月時点までで約0.5兆ドルの財政支援が行われている)。とはいえ、昨年と比較すると明らかに政府からの支援は減少してきており、今後は民間企業からの支出が人々を支えてくれることを政府は期待しています。

司会:FRBの債券購入のテーパリングと、短期金利の引き上げはいつ頃になると予想していますか?

Michael:単純に言うと、今市場が予想しているよりも遅れて行われると考えています。FRBは低賃金労働者の所得回復を妨げたくないからです。FRBの行動は政治化されており、近年政治家や経済学者は貧富の差を埋めたくて仕方ありませんからね。

司会:実際の市場に目を移していきましょう。国債の利率がここ最近で最低になっていますね(参照:米国国債いつ買った?減少し続ける米国債...)。これはなぜでしょうか?

Michael:関与するものが多すぎて一概には言えませんが、もちろん要因の一つは正規発行分の国債がFRBにすべて購入されたからです。利率が引き下がるというデメリットがありますが、このようにFRBが純発行額を購入する準備をしてくれている時は、市場やインフレ見通しが悪くなることはないと言われています。最終的に利率は3~3.75%に復帰すると思いますが、そこに至るまでの期間は不明ですね。どちらにせよ、今は国債を購入する時期ではありません。

司会:間違いありませんね。次に株式市場に目を移していきましょう。これから第二四半期の決算シーズンに突入しますが、企業は第一四半期に見られたような歴史的増収を今回も示すことができるでしょうか?

Michael:できると思います(実際にGoogleは第一四半期の2倍の収益を見せていた)。米国企業は全体の収益の3分の2を人件費に割いており、他のどの国と比較しても営業収益に対する人件費の割合が高いです。中国などではこの割合は15~20%に近いと言われていますからね。これはGDP成長率の増加を意味し、延いては企業の営業収益増加につながっているのです。そのため現在の株式市場の動向はかなり楽観的に見ています。

司会:私も企業は2022年も引き続き成長を続けると予想しています。最後に2022年の大きな懸念材料である、Cooporate taxの増税についてMichaelの意見を聞かせてください。

Michael:交渉の結果、バイデン大統領が当初提案した増税案の30~40%程になりそうです。実際は25~28%になるのではないでしょうか(現在は21%)。また、米国外の支社で得られた収益に対する増税も26.15~26.25%になる予想です(現在は、その支社が存在する国の税金の80%を米国に納める)。もちろん支社がその国でそれ以上の税金を納めているのであれば、それ以上税を納める必要はありません。いずれにせよ、2022年のEPSに5%前後の衝撃を与えることは、頭に入れておくべきです。(略)

司会:今日はありがとうMichael。

考察

2022年は長期金利の段階的増加、さらにはCorporate taxの増税と米国市場にマイナスで働くであろうイベントが盛りだくさんですね。では実際に長期金利の増加とCooporate taxの増加がS&P500指数に与えた影響を見てみましょう。見てわかるように、長期金利が上昇すれば、S&P500指数が落ち込んでいます(下図)。これは長期金利の上昇は企業の収益にマイナスであるため、投資家の株式市場への期待が下がり、お金が株式市場以外の市場へ流れてしまうからです。

長期金利とS&P500指数の推移
長期金利とS&P500指数の推移
macrotrends.netより引用
黄色は増税した年

次に増税との関係を見てみましょう。1950年代に大規模なCorporate taxの増税が行われたのですが、それ以降は1968年、1994年、そして2018年に行われています(Procon.orgより引用)。グラフを見ると、1968年の増税の際にはS&P500指数が右肩下がりですが、1994年と2018年の増税の指数は増加しています。1968年は「アメリカの戦後経済ブームの終わりの始まり」の年とも言われており、1968から見られる暴落は、増税に加えてありとあらゆる負の要因が絡み合った結果だと考えられます。

以上のことから増税が株式市場に与える影響はさほど大きくないと考えられます。ですが長期金利の上昇は見逃せない下降トレンドを創り出す可能性があるので、こちらに関しては引き続き注意が必要だと投資細胞くんは考えています。

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*上記に含まれるコンテンツの一部はPodcast "Insights NOW"を和訳したものであり、情報提供のみを目的としております。また内容は作成時に入手可能な情報に基づくものあり、読者様の財務状況や投資目的を考慮しておらず、内容が適さない可能性があることにご留意ください。