【米国経済】上昇を続けるコモディティ。原因はエネルギー転換?

はじめに

前回も紹介したインフレーション(参照:【世界経済】深刻な状況が続く供給不足。回復のカギは運送業!?)。

インフレーションをけん引する大きな要因は、人々の商品・サービスに対する需要に対して、その供給が不足していることであると説明しました。

そのため、2021年はコモディティ(商品)の価格指数がインフレーションの影響を大きく受けて高騰しました。

その結果株式指数の成績を上回るものとなっています(下図)。

コモディティ(CRB)と株式(S&P500)の価格指数の比較
コモディティ(CRB)と株式(S&P500)の価格指数の比較

インフレーションの原因は需要に対する供給が間に合っていないことが原因ですが、

・なぜ供給不足が解消されないのでしょうか?

・需要の高まりはいつまで続くのでしょうか?

今日はそんな疑問の答えを得るべく、Morgan StanleyのGlobal Commodity StrategistであるMartijn Ratsの話を聞いていきましょう。

スタート

司会:2021年コモディティの価格指数の上昇が株式価格の指数上昇に勝っていました。これは最近10年で2度目の出来事です。

インフレーションが原因という見方が強いですが、なぜインフレーションとコモディティには密接なつながりがあるのですか?

Martijn:コモディティの価格指数は、その実際の価値を再現していることが多いです。

したがって、インフレ率が上昇すると、コモディティの生産コストが上がり、当然コモディティの販売価格も上がることになります。

インフレ率が上昇すると、同時に金利上昇への不安が巻き起こります。

金利上昇の際、多くの金融資産の価格が下落しますが、コモディティはこの影響を受けないことが多いです。

そのため、コモディティへの投資需要が一気に高まります。

その結果、コモディティの価格指数が急上昇することになります

司会:コモディティと一言で表現したとしても、中には小麦、アルミニウム、コーヒーから原油までありとあらゆるものが含まれています。

これらすべてを取りまとめて一般化し、価格変動の理由を説明するのは難しいですよね。

ですが最近のMartijnの研究では、エネルギー転換が、アルミニウムから原油まであらゆるコモディティの価格上昇に関与しているとのことでした。

これについて詳しく説明してもらえませんか?

Martijn:エネルギー転換の際に様々なコモディティに対する需要が高まるということです。

多くの再生可能エネルギー開発プロジェクトを見てみると、風力発電、太陽光発電、水素プロジェクト、電気自動車が必要になります。

そしてこれらのテクノロジーには銅、ニッケル、コバルト、リチウムやアルミニウムなどのさまざまな種類の金属が必要となります。

一方でエネルギー転換は、原油やガスなどの価格に不安をもたらします。

なぜなら、エネルギー転換がうまくいけば、これらの化石燃料は用なしですからね。

同時に現在起こっているのは、エネルギー転換に関して、もう投資余地がないのではないかという不安です。

そして、コロナ禍で消費者のガソリンに対する需要は高まっているため原油価格は上昇しています。

すなわち、従来の化石燃料に投資するべきなのか、新たなエネルギー開発に投資するべきなのか、投資家たちは混乱しているのです。

恐らくこの不安は、エネルギー転換への結果が現れる2030年代まで続くでしょう。

2030年代を見すえて投資を行わないと、今から2~3年の内に原油を掘りつくしてしまうことになりかねませんからね。

以上のように、エネルギー転換が広い意味でコモディティ市場の価格変動に影響を与えます。

司会:石油の話をもう少し掘り下げていきましょう。

Martijnのチームは3つのマイナス要因により石油価格は1バレル(約159リットル)当たり$100に達すると予想していました(下図:2022年2月8日時点で$90.71)。

1バレル当たりの石油単価(USドル)
1バレル当たりの石油単価(USドル)


詳しく聞かせていただけませんか?

Martijn:3つのマイナス要因とは、1)石油の在庫の減少、2)余剰生産能力の減少、そして、3)石油開発への投資の減少です。

1つ目は在庫の減少についてです。

2021年、世界全体での石油消費量は一日当たり9,650万バレルですが、実は200万バレルほどの供給が毎日絞られていました。

2022年は石油の消費量は減少すると予測されていますが、それでも在庫は減少し続けるでしょう。

2つ目は余剰生産能力の減少についてです。

石油の供給が需要に追い付かない緊急時に、余剰生産能力を抱えているのは現在OPECしかありません。

現在OPECは1日当たり350万バレルの追加生産を行ってくれていますが、我々は2022年半ばには、この余剰生産能力は200万バレルを下回ると予想しています。

余剰生産能力が減少すれば、当然需要に供給が追い付かず、石油の価格が上昇することになります。

3つ目は石油開発への投資減少です。

石油開発への投資額は2014年以降年間4,500億ドルと横ばいで、2020年に3,280億ドルになり2019年に比べて32%急激に減少しました。

2021年以降もこの投資額は回復していません。

現在の消費量に対してこの投資額は非常に少ないとみなされています。

以上3つのマイナス要因により石油市場は非常にタイトだと言わざるを得ないでしょう。

司会:現在の石油価格の上昇が地政学リスクによるとの見方もありますが、それに関してMartijnの意見を聞かせてください。

Martijn:可能性は低いと考えています。なぜなら将来の暫定石油価格を示すフォワードカーブ急激に下を向いているからです(下図)。


WTI原油先物価格チャート
WTI原油先物価格チャート

確かに、地政学リスクの上昇によっても価格は上昇するためにフォワードカーブが下を向くことはあります。

ですが、ここまで急な傾きは供給と需要がひっ迫しているために起きます。

そのため、私は現在の石油価格の上昇は、地政学リスクとは関係ないと考えています。

ところで、我々はコモディティを、基礎的な、需要と供給、在庫の有無などから分析しているのですがPodcastの司会として複数のアセットクラスを観察しているあなたはコモディティをどのように分析しているのですか?

司会:投資家に伝えたいメッセージが2つあります。

1つ目は、コモディティは「商品」という名前なのに、実際の商品ではなく指数を売買するという非常にユニークな金融商品です。

そのため、指数は上昇しているが、実際の商品は供給過剰になっているために、スーパーでの価格が低下しているなんてこともあります。

投資家が観察している指数と実際の商品の消費や供給の間にギャップが存在することに注意してほしいですね。

2つ目はインフレーションとの関係について注意してほしいですね。

今の環境では金が最良のインフレ・ヘッジとなると考えています。

こんなところでしょうか。Martijn、今日はありがとうございました。

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saibou

Thoughs on the market

*上記のコンテンツの一部はPodcast "Thoughts on the market"を和訳したものであり、情報提供のみを目的としております。また内容は作成時に入手可能な情報に基づくものあり、読者様の財務状況や投資目的を考慮しておらず、内容が適さない可能性があることにご留意ください。