はじめに

Morgan Stanley、Managing Director, Head of U.S. Public Policy Research & Municipal Credit StrategyのMichael Zezusが、2022年度米国家予算の問題点について話してくれました。

予算の実施予定は10月1日

さて、5月28日にバイデン大統領から今後10年のアメリカ国家予算が発表されました。これを受けて議会は審議をスタートし、2022年の会計年度が始まる10月1日までに細目を決めなければなりません(決まることの方が稀ですが)。決まらなかった場合は最終期限である12月8日まで暫定予算が適用されることになっています。なんといっても注目はバイデン政権の代名詞でもあるBuild back betterプランに組み込まれている巨額のインフラ投資、Bipartisan Infrastructure Planですね。

Bipartisan Infrastructure Planは過去最大級のインフラ投資

Bipartisan Infrastructure Plan(以下Bipartisan Plan)はバイデン政権の目玉政策の一つで、アメリカの経済力を確固たるものにするために8年間で総額1.2兆ドルをインフラ投資にまわす政策のことです。投資先は、道路や橋の建設、公共交通機関網の整備、EVチャージャーの大幅増設、水道、電力から5Gインターネットの普及まで様々なものを含んでおり、総計200万もの新たな雇用を生み出すと言われています。

バイデン政権は現在2年目で、米国大統領の任期は最大8年ですから、一刻も早くこのプランを推し進めたいというのが本音でしょう。しかし、コロナ感染症による不況を防ぐために政府は大量の国債を発行しており、2020-2021年の財政赤字は必至でしょう。この状況でBipartisan planを推し進めることは本当に可能なのでしょうか?

早速、Bipartisan planが承認された際に、アメリカ経済が受けるであろう影響を投資細胞くんと一緒に見ていきましょう。

スタート

ここ最近、投資家はバイデン大統領の目論見の一つである追加予算6000億ドル(計1.2兆ドル)のインフラ投資が、コロナ感染症による経済打撃を受けて減額されるのではないかと注目が集まりました。しかし、結論としてBipartisan planが減額されるか否かは重要な問題ではありません。

Bipartisan planが成功するか否かは政治家にとっては重要ですが、投資家にとっては国家予算が10年続けて4兆ドルを超えること意味します。なぜならBipartisan planが現在の審議で否決されたとしても、後の財政調整法案の会議で50人(51人で過半数)の民主党員が3.5兆ドルの支出にサインすることに合意しているからです。

もともと重要な数名の民主党員が、Bipartisan planに関する話し合いがなければ巨額の支出にサインはしないことを主張したために交渉が始まりました。すでにこの交渉は数ヶ月にわたり行われており、彼らの気も済んだことでしょう。

しかし投資家としてはBipartisan planのによる財政支出を歓迎するべきではありません。

Bipartisan planの承認は来年の支出が4兆ドルを超えることを意味し、これには追加予算で0.5~2兆ドルが必要です。すなわち来年2500~5000億ドルの赤字拡大を意味します。

Bipartisan planは短期的にはGDPの成長を促すでしょうが、国債市場には打撃となっています。これらに伴う米国財政への信頼の欠如は、現在国債の利率を大幅に下落させている要因の一つです(参照:米国国債いつ買った?…)。

考察

2021年絶好調なアメリカ経済に対する暗い情報でしたね。今日の考察では国家予算の赤字拡大の持つ重要な意味について考察してみましょう。

赤字拡大はインフレを引き起こす

国家予算の赤字には循環的赤字と構造的赤字があります。循環的赤字とはいわゆる臨時出費のことで、コロナ禍で仕事を失った人に対する失業手当などの一時的な経済政策によって計上される赤字のことです。一方で構造的赤字とはそもそも計上している歳出が歳入を超えている時に生じる赤字のことです。

もちろんBipartisan planは国家のインフラを改善するための予算ですので、構造的赤字の増加につながります。このプランが通過した際に予想される2500~5000億ドルの赤字とはおそらくGDPの約1%に昇るでしょう。

国家予算の赤字拡大はインフレを引き起こします。資金を中央銀行引受や赤字公債の発行によって補填することで、通貨を社会的必要流通量以上に膨張させるからです。米国ではコロナ感染症による打撃を緩和するために大量の国債を中央銀行引受で発行し、国民にお金を配ったことで、すでにインフレの傾向が見られています(参照:驚異のインフレ率4.2%…)。

このインフレは、コロナ禍で下落した物価がもどってきたという見方もありましたが、今後も引き続きインフレ率が上昇するようなことになれば注意が必要です。

赤字があるうちは経済が停滞する

続いて、S&P500指数と国家財政の赤字(GDP比)と関係を見ていきましょう。ここ最近で米国の国家財政が黒字となったのは1998年から2001年の間だけで、他の期間は大小はあれど常に赤字運営となっています(下図)。

アメリカの財政赤字とS&P500指数の関係
アメリカの財政赤字とS&P500指数の関係

国家財政赤字とS&P500指数と比較するとS&P500指数の上昇とともに国家財政の赤字も改善されいていることがわかります。一方で、90~95年や、2000~2005年に着目してみるとS&P500指数の上昇が鈍化している間は財政赤字が回復していません。

これらは、企業収益が増加し、国家の税収が安定した時には国家財政が黒字に転換すること、一方で企業収益が停滞すると税収も停滞し、財政の回復が遅れることを示唆していますね。現在2021年は企業収益も歴史的数字を記録しています($4420)が、予想される財政赤字も歴史的数字になる予想です(-18%)。

Bipartisan planが承認され、2500~5000億ドルの赤字が計上されたとしても企業収益による税収がそれを継続して上回り続けることができれば財政赤字は未来に改善されるでしょう。今後も、アメリカ企業の収益発表には注目が必要ですね。

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*上記のコンテンツの一部はPodcast "Thoughts on the market"を和訳したものであり、情報提供のみを目的としております。また内容は作成時に入手可能な情報に基づくものあり、読者様の財務状況や投資目的を考慮しておらず、内容が適さない可能性があることにご留意ください。